
はじめに
僕は毎年、1万5千首くらいの小中学生の作った短歌を読んでいます。
小学生の身長で見た景色が楽しくて、校庭を駆け回る言葉に体を熱くし、中高生の初恋にほだされながら、楽しく読んでいるのですが、実は上の写真のような「楽しみは〜」で始まる歌が全体の1/10くらいあります。
聞くところによると国語の教材で橘曙覧の
たのしみは艸のいほりの莚敷きひとりこころを静めをるとき
たのしみはすびつのもとにうち倒れゆすり起こすも知らで寝し時
たのしみは珍しき書人にかり始め一ひらひろげたる時
・
・
・
という歌が載っていて、国語の先生がそれに沿って教えている場合があるのだとか。
もちろん「初めての短歌を作る」「とりあえず作ってみる」という目的であれば橘曙覧の独楽吟を真似るのも一つのやり方だと思うのですが、この形で作られた作品にはなかなか差が出ず、賞に入れてあげる事が難しい。
それに何より小中高生のみずみずしい感性が「楽しみは〜」の型にはめられて1000首も2000首も僕のもとに届くのはとても悲しい。
そんな訳で、僕の知っている一番ベーシックな短歌の作り方(たぶん)をここに記したいと思います。
短歌という形

上のメッセージのやり取りは僕の講演を聴いて短歌を作ってきてくれた企業家の方と僕、そして僕の友達の俳人のやり取りです。
まず企業家の方が
・湯けむりに月もほっこり秋ふかし
という俳句を僕に送ってきてくれました。
助詞の「も」の使い方が上手いなと思ったのですが、俳句は僕の専門外なので俳人の友人にメッセージを転送してアドバイスを頼みました。
(575の俳句と57577短歌を混同されている方はとても多くいらっしゃいます。それに僕だって俳句の添削が出来るほど俳句に詳しくありません。)
俳人の友達は「月は秋の季語なので「秋ふかし」はいらない」と教えてくれて、句の添削もしてくれました。
・湯けむりに月もほつこりしてゐたる
なるほど、俳人は月を見上げただけで背景に秋を想像するのか。
無駄が無いシャープな作品になりました。

その後、俳人の友達は僕に質問してきました。
「この俳句を短歌にするとしたらどうしますか?」
・湯けむりに月もほっこりしてゐたる □□□□□□□ □□□□□□□
575の俳句ができているので下の句に77をつけるだけで短歌になるのですが、あなたならどんな言葉を入れますか?
短歌は自分の状態や心情を書く

俳句は景色を表現する「叙景詩」、短歌は作者の気持ちを表現する「抒情詩」と言われています。
・湯けむりに月もほっこりしてゐたる
は「月もほっこり」とあるので作者「も」ほっこりしているのだろうと想像できますが、短歌にする場合はもっと具体的に作者の状況を書いてみましょう。
・湯けむりに月もほつこり浮かびおり 秋季決算終えし金曜
いかがでしょうか。
作者が企業人なので「秋季決算」という言葉を入れてみました。大仕事終えて迎えた週末の露天風呂。
作者の状態がより細かく読者に伝わり、心情や月の浮かび具合がじわ〜っと伝わってきませんか?
こんな風に
〈風景〉×〈その風景を受けての作者の気持ち〉
というのが短歌の一番基本の形になります。(と思います)
例えば現代短歌でいちばん有名な
・「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日 俵万智
も、上の句で風景、下の句でそれを受けての作者の気持ちという構造です。
他にも
・清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふひとみなうつくしき 与謝野晶子
・春の夜にわが思ふなり若き日の唐紅はかなしかりける 前川佐美雄
・さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり 馬場あき子
などなど、例歌を挙げるときりがありません。
気持ちの表現が短歌の一番難しい部分だと思います。
「嬉しかった」「寂しかった」といった言葉を加えると大味になってしまいます。
「月もほっこり」の様に、上の句で自分の心情がいくらか描かれているのであれば、
〈風景を描く〉×〈時、場所、動作など作者の状態を描く〉
という形で気持ちの表現のバランスを取ったりします。
・友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て/妻としたしむ 石川啄木
という具合です。「嬉しい」「寂しい」よりもっとささやかな感情、
あなたが感じた心を素材にしてみて表現してみてください。
終わりに
いかがでしたか?
短歌は型の文芸なので、
〈風景の575〉×〈あなたの気持ちの77〉
という形に沿って言葉を埋めてゆくと、なんとなく短歌ができます。
きっと「楽しみは〜」の形で詠むよりずっと素敵なあなただけの一首ができると思います。
型にはめながら、指折り一首詠んでみてください。そして一首できたら、ぜひ読ませてくださいね♪
※この形で作った短歌の風景と気持ちの順番を入れ替えたり、57577の割合を変えたり、ちょっと違う言葉を混ぜたりという短歌のステップアップの技術があるので、後日またブログに書いてみようと思います。
